ソーシャルメディアを活用した自殺対策に関する研究

はじめに

ソーシャルメディアは「ブログ,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS),動画共有サイトなど,利用者が情報を発信し,形成していくメディア」と定義されており(総務省, 2013),「利用者同士のつながりを促進する様々な仕掛けが用意されており,互いの関係を視覚的に把握できる」点に特徴があります。

ソーシャルメディアは,個人間のつながりを創出・強化し,興味・関心のある情報の収集を可能にすることで,メンタルヘルスを促進することが期待されます。
自殺予防対策の視点からみると,ソーシャルメディアの利用によるヘルスリテラシーの向上やソーシャル・サポートの増加と維持は,生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)を増やすことになり,自殺予防につながることが期待されます。

しかしながら,ソーシャルメディアの利用には,複数のデメリットも指摘されています。たとえば,コミュニケーションのすれ違い,他者からの誹謗中傷,悪意を持つユーザーとの意図せぬつながり,生活習慣の悪化(睡眠時間の減少,身体活動量の低下),依存性の亢進などは,メンタルヘルスを阻害すると考えられます(たとえば Riehm et al., 2019; Viner et al., 2019; Seabrook et al., 2016)。これらのデメリットは,生きることの阻害要因となり,自殺のリスク要因となりえます。

このように「誰もが情報の発信者であり受信者である」性質を有しているソーシャルメディアは,生きることの促進要因にも阻害要因にもなりうる両価性を有しています。そのため,ソーシャルメディアを適切に利用するための個人のリテラシーを高めるとともに,より安全な利用環境を社会が整えることは,メンタルヘルス対策,さらには自殺予防対策にとって重要な課題といえます。

図 ソーシャルメディアと自殺予防・自殺リスクの関連
島津 明人
しまず あきひと
慶應義塾大学 総合政策学部・教授

研究目的

本研究では,大学生および労働者のソーシャルメディア使用の実態を把握し,ソーシャルメディアがメンタルヘルスに及ぼす影響と,そのメカニズムを明らかにすることを目的としました。

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに及ぼす影響は,メディアの種類,利用頻度/時間,利用目的/内容,利用者の特徴,利用環境などにより異なる可能性があります。本研究では,これらの要因を,環境要因と個人要因とに整理し,メンタルヘルスに対してどのように影響するのか(促進/阻害)を,実証的に明らかにしました。

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに及ぼす影響のメカニズムを明らかにすることを通して,生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)を低減し,促進要因(自殺に対する保護要因)を増やすための方策を,個人と社会に向けて提案します。

図 1 構成概念図

2020年度
2021年度