2022年2月
執筆担当:河田美智子
1.はじめに(調査の目的)
日本では新型コロナウイルス感染対策として,急激に進んだテレワークや分散出勤によって,仕事の割当や労働時間の管理が難しくなり,仕事の過大負荷と過少負荷の両極の問題が起こっている可能性が指摘されている。従来から日本においては,仕事の過大負荷に起因するバーンアウト(燃え尽き症候群)やワーカホリズム(強迫的かつ過度に働く傾向)に焦点を当てた研究は多い一方,過小負荷に起因する仕事における退屈の実情について,十分に把握しきれていない。
そこで,本ミニレポートでは,2020年12月に実施したインターネットによる調査(1,358名)をもとに,性×年代,職位,婚姻状況,子どもの有無によって「仕事における退屈」の平均値に違いがみられるかを報告する。なお,「仕事における退屈」の測定は,Dutch Boredom Scale(Reijseger et al., 2013)の日本語版を用いた。
※慶應義塾大学島津研究室ではCOVID-19のパンデミックによる働き方の変化と健康及びウェルビーイングに関する縦断調査を,20-59歳の正規従業員・公務員を対象に,3ヶ月ごとに行っている。本ミニレポートは,このうち第3回調査(2020年12月実施)を使用して分析した。
2.属性別の仕事における退屈の状況
(1)性別×年代別
20歳代の男性(139名)の平均値が,50歳代の男性(194名)ならびに50歳代の女性(178名)の平均値に比べて,有意に高かった。
(2)職位別
一般職~係長(1552名)の平均値が,課長以上(206名)の平均値よりも,有意に高かった。
(3)婚姻状況別
結婚していない群(686名)の平均値が,結婚している(内縁を含む)群(672名)の平均値よりも,有意に高い傾向があった。
(4)子どもの有無別
子どもなし(878名),中学生以下の子どもなし(192名),中学生以下の子どもあり(288名)いずれの群間においても,有意な平均値の差はみられなかった。
3.考察
本ミニレポートは,仕事における退屈の平均値を,属性間(性別と年代,職位,婚姻状況,中学生以下の子どもの有無)で比較した。その結果,性別と年代では20代男性が,職位では一般職層が,仕事において退屈していた。特に20歳代男性の仕事の退屈が高かったことには,注意を要する。
コロナ禍のテレワークや分散出勤により,職場の上司や同僚と直接対面する回数が減少した。結果的に,自分の状況を把握してもらえる機会,支援やフィードバックを受ける機会も減少したと考えられる。
管理職がメンバーの仕事の負荷状況を適切に把握できない状況では,新たな業務が発生した際,メンバーに割り当てるよりも自ら業務に当たらざるを得なかったかもしれない。また,コロナ禍という緊急事態時,意思決定しなければいけない業務が増えた可能性もある。こうして,一般職層が管理職層に比べて通常よりさらに業務負荷が低下し,仕事において退屈傾向が高まった可能性がある。
またより若い世代は,仕事のプロセスの一部を担っていることが多い。このため,周囲との接触機会の減少により,仕事の全体感や自分の仕事のやり方のよしあしが把握しづらく,仕事の意義が感じにくくなったことで,仕事における退屈につながったかもしれない。
さらに,女性よりも男性のほうが退屈していたことについては,仕事における退屈に関わる個人特性である「刺激欲求(sensation seeking)」が女性よりも男性の方が高いことが先行研究でも指摘されていることが関係しているかもしれない。
今後は,こうした職場環境や個人特性など,総合的に仕事における退屈の規定要因について検討が必要であろう。
■引用・参考文献
- Reijseger G, Schaufeli WB, Peeters MC, Taris TW, van Beek I, Ouweneel E. Watching the paint dry at work: Psychometric examination of the Dutch Boredom Scale. Anxiety Stress Copin 2013;26:508-525.
- 河田美智子・島津明人 仕事における退屈 産業精神保健 2021; 29(4):406-413.