TWIN studyについて

研究代表者から

新型コロナウイルス感染症の世界的流行により,私たちの働き方は大きく変化しました。その影響は,ワーク・ライフ・バランス(WLB)にも認められています。たとえば,在宅勤務を行うことで,心身の負担が軽減し,家事・育児時間が増え,生活満足度が向上するなどの肯定的な影響が報告されています。

一方で,在宅勤務は,仕事と私生活との間の物理的な境界だけでなく,時間的な境界もあいまいにします。そのため,長時間労働につながったり,家庭生活と仕事生活との相互干渉をもたらすことなども,報告されています。

しかし,コロナ禍で急速に変化した働き方が,未就学児を持つ共働き世帯のWLBにどのような変化をもたらしているのでしょうか? これらの変化は,精神的健康にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?
これらの疑問を実証的に明らかにした研究は,ほとんど行われていないのが現状です。

そこで,私たちは,コロナ禍で大きく変化した育児期共働き世帯のWLBと精神的健康への影響,およびそのメカニズムを検討することを目的に,新たな研究プロジェクトを立ち上げました。この研究プロジェクトでは,パネル調査,経験サンプリング調査,面接調査という3つの異なる研究手法を組合わせながら,研究課題の解明に臨みます。

このプロジェクトを通じて,WLB理論のさらなる発展だけでなく,臨床心理学,健康心理学,産業保健学,発達科学など関連領域の研究を刺激し,支援プログラムの開発や政策立案など実践への発展に貢献したいと考えています。

慶應義塾大学総合政策学部
教授 島津明人

TWIN studyについて

私たちの研究チームでは,「ワーク・ライフ・バランスと健康」プロジェクト,通称TWIN study(Tokyo Work-life Interface)を立ち上げ,保育園にお子様をあずけながら仕事に従事している共働き夫婦を対象に,仕事と家庭生活との接点が健康に及ぼす影響を継続的に検討してきました。

TWIN studyは,2008~2009年の2年間に行われたTWIN study I, 2010~2014年の5年間に行われたTWIN study II,2015~2019年の5年間に行われたTIWN study IIIがあります。

TWIN study Iでは,2008年秋時点でお子様を保育所にあずけていた都内某区内の共働き夫婦約3,000世帯が調査に参加されました。夫と妻それぞれの働き方,ワーク・ライフ・バランスのあり方が健康にどのような影響を及ぼすのかを検討した世界最大規模の疫学研究でした。

その結果,いきいき働いているとパートナーにもいきいきが伝わること(Bakker et al. , 2011) ,妻の仕事依存により夫のワーク・ライフ・バランスが悪化すること(Shimazu et al., 2011 ),仕事依存により夫婦間のコミュニケーションが悪化し,パートナーのメンタルヘルスも悪化すること(島田他, 2016 )などが明らかになりました。

TWIN study IIでは,2010年および2011年秋時点でお子さまを保育所にあずけていた都内の2つの区在住の共働き約660世帯に参加登録いただき,父親-母親-子どもの3者関係をワーク・ライフ・バランスに注目しながら3年間追跡調査しました。

その結果,父親の仕事依存が子どもの肥満につながること(Fujiwara et al., 2016 ),親がいきいき働くと子どもの情緒・行動行動が少なくなること(Shimazu et al., 2020 ),仕事が忙しくても裁量権のある職場環境で働いている父親の家庭では,翌年にもう一人子どもが生まれる可能性が高いこと(Eguchi et al., 2016 )などが明らかになりました。

TWIN study IIIでは,ワーク・ライフ・バランスと健康の向上を図るためのプログラムを新たに開発しました。このプログラムは,セルフマネジメント,夫婦マネジメント,育児マネジメントから構成され,集合研修で提供されました(1回3時間×2回)。
プログラムは全国の7つの地域で実施され,その効果を無作為化比較試験という方法で検証した結果,プログラムの受講により,ワーク・ライフ・バランスについての自己効力感が上昇し,心理的ストレス反応が低下していました(Shimazu et al., 2023 )。

TWIN Study I・II・III を通した研究によって,ワーク・ライフ・バランスがご自身やご家族の健康に及ぼす長期的な影響を明らかにしただけでなく,仕事と家庭とを両立しながら働く方とそのご家族を支援するための効果的な方策を提案することができました。

仕事と育児の両立に役立つ情報(研究成果より)